不意に、廊下から歌声が聞こえてくる。
(…わっすれもの〜わっすれもの〜♪も〜お〜やってらんないわ〜♪)
「…ユリさんの声ですね」
「ノーテンキだよなぁあいつは…」
 八つ当たりでもするかのように、レオンが言い放った。
 歌はしだいにこちらへ近づいてくる。
(ラケットさがしておーあわて〜♪)

── ガラガラッ

「あれぇ?3人とも何やってんのぉ?こんな暗いところで、明かりくらいつけたら?
 …あーっそれってもしかしてチョコレート!?レオンが貰うなんて珍しー!ねぇねぇ
 誰から貰ったの?あたしにも一個ちょーだい。いっただっきまーす!」
「ああっ、ま、待ってください!」
「ほえ?ほひたの?」
 カイルの制止よりやや早く、ユリは緑色の固形物を3粒ほど頬張っていた。
「…セリオス、牛乳と卵の用意だ」
「吐かせるんだな。よし、すぐ買ってくる」
「待っててくださいねユリさん、いま急いで解毒剤の調合を…」
 慌てる3人を見て、ユリはきょとんとしている。そして言った。
「この抹茶チョコ、なんか入ってたの?」
「…へっ?…まっ…ちゃ?」
 拍子抜けしたようにレオンが言った。
 カイルは、カバンの中を弄る手が止まった。
 セリオスはドアのところでコケたようだ。

── 抹茶かよ!!

 3人の頭に全く同じ文章が浮かんだ。

 ユリが口を開く。
「最近発売された新しいやつね。初めて食べたけど結構いけるわーこれ」
「……売ってる物なのか…」
 立ち上がろうとしたセリオスだが、今のユリの言葉を聞いて
 四つん這いになったまま立ち上がれないでいた。
「…あいつ、確か『自分で作った』っていったよな?」
 レオンが疲れた表情で言った。
「ああ、聞いたよ。間違いない」
 セリオスがやっと立ち上がりそう言った。
「じゃあ、この亀のリボンも…」
「全てイタズラだった、というわけか…」
 はぁ、とため息をつくレオンとセリオス。
「マラリヤさん、結構茶目っ気があるんですね」
 もう立ち直ったのか、カイルは抹茶チョコを1粒口に運んでいた。

「…なんか知らないけど、折角貰ったんだから喜ばなきゃだめよー?
 それと、ちゃんと来月忘れずにお返しするのよ。
 特にレオン!あんたアホだからすぐ忘れるでしょ?」
 と言いながら、ユリはテニスのラケットを持って教室を去っていった。
「ああ、そうだな…お返しをしなきゃな…セリオス、作戦会議だ」
「そうだな…作戦を練らなければな…」
 のそのそと集まる2人。それを不安そうに見ていたカイルは、しばらくして
「…程々にしてあげましょうね」
 と笑顔で言い残し、帰りの支度を始めたのであった。


 レオンとセリオスによる「マラリヤを怖がらせるためのクッキー作り」の作戦会議は
 3時間にも及んだという、、、


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