#5 賢者の勧誘、令嬢の葛藤 1

「ここはやっぱり、デートに誘うべきだよ。カイル兄ちゃん」
「やっぱり、ですか」
「女の子は付き合い始めが肝心、っていうからね。だから僕なんて、最初のデートの時は特に気合をいれてるよっ」
「なるほど…。ちなみに、ラスク君はそういう時、どういう所を選んだりするんですか?」
「うーん。相手によりけりだけど…正攻法だったら、やっぱ遊園地かなぁ」
午後の教室。昼食を終えた生徒達が、次の授業が始まるまでの時間を、各々自由に過ごしている。
カイルが話し込んでいる相手は、同級生でありながらも、彼とは三歳年下である、ラスクという少年だ。アロエと同様に、ラスクもまた、天才飛び級少年である。
「でも僕の場合は、相手が年上ばっかりだからね。カイル兄ちゃんの参考にはあんまりならないかもなぁ」
「いや、そんな事は無いですよ。こういう経験では、ラスク君の方が先輩ですから」
「えへっ、それほどでもないけどねっ」
カイルは、元々ラスクに対してある種の親近感を抱いていた。
そしてラスクもまた、信頼できる年上の存在として、カイルの事を慕っている。
仲の良い兄弟のようなクラスメイト。二人の関係は、周りから見てもそう言えただろう。
「だけどさ、本音を言うと、今でも信じられないよ。カイル兄ちゃんが、あのお嬢様と、なんて」
「えぇ、正直言って、僕も未だに実感が沸かないですよ」
カイルとシャロンの交際は、2日目にして既にマジックアカデミー全体に知れ渡っていた。
あるいは、シャロンが大々的に宣言した、という表現の方が、正しいかも知れない。
そして、後は連鎖的に情報網が繋がっていった。それだけの事だ。自然の摂理とも言えるだろう。

「カ・イ・ル・くぅーん」
ラスクとの会話の最中、突然にカイルの背後から耳元へかけて、囁きかけられる女性の声。
「っ?!」
カイルは咄嗟に振り返る。
「聞いたわよ〜。あなた、やったじゃないっ!」
ビシィッ! っとサムズアップ(親指を立てる例のポーズ)をしながら笑うその女性は、マジックアカデミーにてノンジャンル(総合的な能力を問う教科である)を担当している、アメリアだった。
「アメリア先生…次の時間って、先生の授業でしたっけ?」
「あら、そんなのいいじゃないの。ねっ、それよりもっと詳しく聞かせなさいよ、どうやって落としたの!?」
「いや、落としたって言いますか……はぁ…」
嬉々として訊いてくるアメリアを前にしながら、カイルは思わずため息をついてしまう。
その日は朝から、実に多数の生徒達による、質問攻めに遭っていた為だ。
「ふーん、アメリア先生ってば、私の授業を『そんなの』扱いしちゃうんだ」
「あっ…」
今度は、アメリアが後ろを振り返る。
そこには、同じくマジックアカデミーにて、アニメ・ゲームを担当している、マロンの姿があった。
見た目的にはせいぜいアロエよりも僅かに年上、といった感じなのだが、それでもれっきとした教師である。
「もうっ、先生がそんな浮いた話に自分から反応してちゃ、ダメじゃないっ!」
「そうだよアメリア先生。カイル兄ちゃんも、困ってるよ」
絶妙のタイミングで、ラスクが助け舟を出す。
「うぅ、そうは言ってもねぇ…気になるものは、気になるのよぉ〜」
「そこを教師は我慢してみせるのが、生徒への教育でしょ。さっ、自分の受け持ちクラスへ戻って戻って」
その容貌に似合わず、マロンははっきりとした口調で、アメリアを嗜める。
「…分かったわよ。それじゃ、カイル君……また今度、楽しみましょうね――」
意味深なようでいて、その実、まったく意味不明な台詞を残しながら、アメリアは教室を去っていく。
「まったくもう…あんなだから、寮の監督にも任命されないって事、気付いてないのかなぁ」
「は、ははは…」
困ったように呟くマロン。そんな光景を前に、カイルはただ笑う事しか出来ないでいた。
「さっ、それじゃあみんなも席についてー! 授業開始、かいしーっ!!」


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